【裁判外考察】肖像権について

肖像権とは、基本的に法律で明文化されているものではなく、これまでの判例によって積み重ねられてきた権利である。
基本的に、肖像権は大きく分けて人格権と財産権にわかれ、プライバシー権の一部として位置付けられる。

人格権としての肖像権は「他人に無断で自分の写真や動画を公表されたり使用されたりしない権利(最高裁大法廷昭和44年12月24日判決)」であり、財産権としての肖像権は「自分の肖像を提供することで対価を得る権利」である。
しかしながら、最高裁の判決において、「ある者の容ぼう等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは,被撮影者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所,撮影の目的,撮影の態様,撮影の必要性等を総合考慮して,被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべき(最高裁第一小法廷平成17年11月10日判決)」という肖像権の判断基準が判例として存在する。
とても大切なのは、どちらにあっても「人」に対して肖像権が侵害されたかどうかであり、その判断においても「被写体となる人物が社会的地位を下げるような目的で撮影され公表・使用」されて初めて肖像権の侵害が成立するものである。

また、人物以外の「モノ」に対して肖像権のひとつであるパブリシティ権(肖像を商業的に使用する権利)が否定されている決定的な例として『ギャロップレーサー事件(最高裁第二小法廷平成16年2月13日判決)』がある。
これには「競走馬の名称等が顧客吸引力を有するとしても,物の無体物としての面の利用の一態様である競走馬の名称等の使用につき,法令等の根拠もなく競走馬の所有者に対し排他的な使用権等を認めることは相当ではなく,また,競走馬の名称等の無断利用行為に関する不法行為の成否については,違法とされる行為の範囲,態様等が法令等により明確になっているとはいえない現時点において,これを肯定することはできない」という判例があり、噛み砕いて話せば「法律上、馬は『物』であり、物に対する肖像権やパブリシティ権は現在の法律に規定されていないから裁判所では判断できないよ」というものである(ある意味において立法府である国会の怠慢とも言えるかも)。

今回のサイドビュー無断使用による裁判にあたり、
・原告が撮影しウェブサイト上に公開したことで、被告側が社会的地位を下げたと主張できる要素がないこと。
・主たる被写体は「鉄道車両=物」であり「人」ではないこと。
という2点から、被告が肖像権の侵害を理由に反訴を提起すること自体難しかったものと思われる。

なお、今後立法府(国会)で物に対する肖像権やパブリシティ権が法令によって明確になった場合はこれらの判例が効力を失い、法令が最優先される可能性が高いことに注意いただきたい。

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