被告の責任について

本件ポスターを作成したのは本件従業員であるが、この著作権侵害が発生したのは会社の責任であるのかが問われた。

原告の主張

被告は、本件従業員に対し、著作権法をはじめとする法令を遵守する教育を徹底し、法令を遵守させる体制を整備させる注意義務が存在するにもかかわらず、本件ポスターを本件従業員に制作させ、また、本件ポスターを各駅に掲示するに当たって、著作権侵害の有無等について原告に利用許諾の確認をすることがないまま、本件ポスターを制作したのであるから、被告は、原告に対する著作権(翻案権)侵害行為又は著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)侵害行為について、責任を負う。

被告の主張

被告は、本件従業員に対し、本件ポスターに掲載された電車部分につき、著作権侵害行為の有無を確認し、著作権侵害行為によって制作したものではないとの回答を得た上で掲示した。また、本件写真のような電車はありふれたものであるから、それを写した写真を利用する際、逐一著作権侵害の有無を確認しなければならないというのは現実的ではなく、被告が、本件ポスターについて本件写真に係る著作権又は著作者人格権の侵害の有無等を確認することは不可能である。したがって、被告には、著作権又は著作者人格権侵害について故意又は過失がなく、責任がないというべきである。

裁判所の判断(判決)

本件ポスターの内容が本件ポスター一覧記載のとおりであり、親会社の宣伝を内容とし、親会社の管理する駅の構内に掲示されたことからすると、本件ポスターの制作は、本件従業員が、被告が行う鉄道事業及び広告、宣伝に関する事業等に関する職務の遂行の一環として制作したものであり、被告が、その内容を踏まえた上で、これらを駅の構内に掲示することを決定したということが推認でき、これを覆すに足りる証拠はない。
このように従業員が業務上制作した掲示物をその業務に関し掲示する場合、使用者は、一般的な法令遵守義務の一環として、当該掲示物が著作権を侵害して制作されたものであるかどうかを確認すべき注意義務を負い、この注意義務に違反した場合には、当該掲示物の掲示は、当該掲示物の著作権者との関係でも、違法となるというべきである。
被告は、本件ポスターを掲示する以前に、本件従業員に本件ポスターを制作するに当たって利用した写真の入手元を確認すれば、翻案権を侵害して制作された本件ポスターを利用することにもならなかったということができたにもかかわらず、本件従業員に本件ポスターを制作するに当たって利用した写真の入手元を確認する等して著作権を侵害して制作したものでないことを確認せず、本件各ポスターを利用したことは、上記注意義務に違反したものというべきである。
これに対して、被告は、本件従業員に著作権法に違反していないか確認していた旨主張する。しかしながら、同部分は一般的な法令遵守を求める旨の指針に過ぎず、この規定があることから直ちに本件ポスターにつき著作権侵害の有無等につき確認したことが推認されるということもできず、かえって被告の従業員が原告とのやりとりの中で、被告のチェック体制がおろそかになっていたことが本件各写真の無断利用の原因である旨の発言をしたことからすれば、被告は、上記確認を行っていなかったと考えるのが自然である。したがって、被告の主張は採用できない。
以上によれば、被告は、本件従業員がした本件写真に係る翻案権侵害につき不法行為法上の責任を負うというべきである。

総評

被告は、終始にわたり「会社から作成の指示はなく、従業員自らの発意で作成・掲出したもの」という主張を繰り返し、会社としての責任はないとしていた。しかしながら、業務請負の一環として作成したと考えることが自然であり、それを確認しなかったことで今回の著作権侵害が発生したと考えることが自然だと結論づけている。確認が万全であれば起こらなかった事であり、逆に確認を怠ったからこそ発生してしまったことであるので、会社側に責任を負うべきとされた。
これにより、作成した本件従業員がすべて悪いということではなく、確認を怠った会社にも責任を負わなければならないことになった(ただし、この裁判において本件従業員は被告に入っていないので本件従業員に責任があるかどうかの判断はなされていない。今本件従業員は係争中に自殺したという報道もあるので、会社側が本件従業員に責任があるかどうかの追求をすることができない状況にあるのが残念である。)。

タイトルとURLをコピーしました