著作物を公表する際に、著作者の実名またはペンネームなどの変名を表示するかしないかを選択できる著作者人格権のひとつである。
原告の主張
原告は、写真に本件ウェブサイトのURL(以下「本件URL」という。)を表示させていた。本件URLをインターネットで検索すれば、本件ウェブサイトに行きつくのであるから、本件URLは本件ウェブサイトの所在を示し、ひいては本件ウェブサイトの管理者である原告をも示すことになるから、本件URLは、著作権者を表示するものであり、変名に該当する。
そして、本件ポスターにおいては、いずれも本件写真に付されていた本件URLが削除されているのであるから、本件各ポスターの制作・掲示は、氏名表示権の侵害にあたる。
被告の主張
URLは、ウェブサイトを特定するための符号であるから、本件URLは著作権者を表示するものということはできず、原告の変名であるということはできない。したがって、本件URLを削除して本件ポスターを制作したとしても、氏名表示権の侵害には当たらない。
裁判所の判断(判決)
本件写真には、原告により本件URLが貼付されて公開されていたところ、原告は、写真をアップロードして利用者に閲覧させる本件ウェブサイトを管理運営し、本件写真に本件URLを貼付していることが認められ、これが本件写真に係る著作者名として本件URLを本件各写真に貼付することによって表現しているということができるから、本件URLは著作者名を表現する符号として機能しているということができる。
これに対し、被告は、本件URLは、本件ウェブサイトの所在を示す符号にすぎないから、著作権法19条1項に規定する「変名」に該当しない旨主張する。
しかしながら、著作権法19条1項の趣旨は、著作者の創作によって生ずる著作者と著作物との人格的結び付きに着目し、その人格的利益を保護することにあり、このことからすると、同項にいう「変名」は、その著作者が著作者名として用いる名称で実名(戸籍名)以外のものをいうと解釈されるところ、URLが本来的にはインターネット上のウェブサイトの所在を示す符号であるとしても、インターネット上における表現に当たって、ウェブサイトを立ち上げて自己の思想等を表現するURLを自己の著作物に貼付して著作者名を表現しようとすることは、インターネット上の表現の手段の一つとしてあり得るということができ、このような場合に著作物に付されたURLは、単に当該URLによって示されたウェブサイトのインターネット上の所在を示すものであるというにとどまらず、当該URLが当該著作物に付した著作者をも表す機能を有するというべきである。
したがって、本件写真に貼付された本件URLは、著作権法19条1項にいう「変名」に該当すべきというべきであり、被告の主張は採用できない。
そして、本件ポスターには本件URLが貼付されずに駅の構内に掲示されていたことが認められ、このことからすると、本件従業員は、本件写真に貼付された変名である本件URLを削除した上で、本件写真を本件ポスターの制作に利用したというべきであるから、本件ポスターを駅の構内に掲示した行為は、原告の本件写真の氏名表示権を侵害する行為に該当する。
総評
ウェブサイトのURLが、著作者の変名にあたるかどうかが争点となった内容である。これまで判例には存在しなかったと思われる内容であるから、今後のインターネット上で問題となった場合の裁判の判例として残るものと考えられる。
この裁判において、ウェブサイトの管理者本人が撮影・作成した作品にウェブサイトのURLを記載した場合においては、ウェブサイトのURLが著作者の変名になるという判例となった。
また、原著作物に示された氏名表示を削除したまま使用することは、氏名表示権の侵害に当たるという判断もなされている。
ただし、「著作者とウェブサイトの管理者が異にする場合」や「著作者とウェブサイトの管理者が同一であると認められなかった場合」などにおいては、この判例通りの結果にならない可能性があることに注意が必要である。