著作物性について

著作物とは、法律では以下のように定義されています(著作権法2条1項1号)。

(定義)

第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

「思想又は感情」が、「創作的に表現」されているものであり、「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属」していれば、その作品は著作物として認められるということです。
ここでいう「著作物性」とは、これら3つの条件に当てはまっているものかどうかが争点になっています。

・原告の主張

 本件写真は、原告が、走行中の鉄道車両の力強さやデザインの美しさ等を撮影した瞬間でしか切り取ることのできない雰囲気を保ちつつ作成し、鉄道車両の機器類などの様々な特徴をできるだけより正確に再現する撮影をするというコンセプトの下に、平成27年4月から令和2年8月までの間に、撮影場所(場所とともに光の当たり方等も踏まえる必要がある。)を選択し、構図を設定した上で、走行中の鉄道車両をデジタル一眼レフカメラの動画機能を用いて撮影した上で、コンピューターを用いて動画を静止画に変換し、その静止画をコンピューター上で1枚1枚重ね合わせて編集し、1枚の横長の写真を制作したものであり、著作物に当たり、原告が著作権者である。

被告の主張

 本件各写真は、車両を横から写したもので、車両の形状を忠実に写し取ったものにすぎず、このような写真は、ありふれたものである。原告は、本件写真の撮影方法に諸種の工夫を凝らした旨主張するが、アイデアや表現の手法それ自体などの表現でないものは、著作権法で保護されるものではない。

裁判所の判断(判決)

(1) 写真は、被写体の選択・組合せ・配置、構図・カメラアングルの設定、シャッターチャンスの捕捉、被写体と光線との関係(順光、逆光、斜光等)、陰影のつけ方、色彩の配合、部分の強調・省略、背景等の諸要素を総合してなる一つの表現である。このような表現は、レンズの選択、露光の調節、シャッタースピードや被写界深度の設定、照明等の撮影技法を駆使した成果として得られることもあれば、オートフォーカスカメラやデジタルカメラの機械的作用を利用した結果として得られることもある。また、構図やシャッターチャンスのように人為的操作により決定されることの多い要素についても、偶然にシャッターチャンスを捉えた場合のように、撮影者の意図を離れて偶然の結果に左右されることもある。静物や風景を撮影した写真でも、その構図、光線、背景等には何らかの独自性が表れることが多く、結果として得られた写真の表現自体に独自性が表れ、創作性の存在を肯定し得る場合には、当該写真は著作物に該当するというべきである。

(2) 本件各写真は、線路を走行中の鉄道車両を被写体とするものであり、原告は、本件各写真を撮影するに当たって、自らの撮影意図に応じて構図や撮影角度、被写体との距離、シャッターチャンス(撮影のタイミング)の捕捉、被写体と光線との関係等のほか、動画撮影した被写体のコマを複数重ねることによって加工して一つの写真を制作していることが認められるから、本件各写真は、原告の思想又は感情を創作的に表現したものとして著作物性を有するものと認められ、著作権法10条1項8号にいう写真の著作物に当たる。

(3) これに対して、被告は、①本件各写真は、鉄道車両の側面を撮影したものであり、ありふれたものであるから、著作物性は認められない、②本件各写真は被告東武鉄道が業務に使用する鉄道車両であるから、これを撮影した写真には著作物性は認められない旨主張する。しかしながら、本件写真は、撮影角度、撮影場所などを工夫した上で、動画撮影した被写体のコマを複数重ねるという技法で1回の静止画撮影と異なる画像を制作したものであるから、それが被告の運行する既存の鉄道車両の側面を撮影したものであっても、創作性があるというべきである。したがって、被告の上記主張は採用できない。

総評

写真の著作物の認定としては、ごくありふれた判断であると思われる。というのも、裁判所の判断の(1)の項目については、過去の判例(みずみずしいスイカ事件)をもとに判断していると考えても良いだろう。
また、原告は表現の手法(動画から切り出して1枚の写真に加工すること)について述べており、被告は「表現の手法…などの表現でないものは、著作権法で保護されるものではない」と主張している。しかしながら、過去の判例をもとにすると、被写体(鉄道車両)と表現の手法という両者が互いに存在することで独自性が生まれ、創作性が認められれば、その写真は著作物としに該当すべきと判断できる。つまり、被写体だけでは独自性や創作性が判断できるものではなく、表現の手法においても立証しなければ写真の著作物として認められる可能性が低くなる、という判断ができると思われる。
さらに、(3)②では、被告が所有権を有する被写体であっても、著作権には何ら影響を及ぼさないことが示されている。これも、過去の判例(かえでの木事件、平等院パズル事件など)に則ったものである。

よく言われる「撮り鉄写真なんか誰でも似たり寄ったりな写真ばかりだから著作物性はない/著作物ではない」という意見を聞くが、
・なぜその機種のカメラ本体なのか
・なぜその機種のレンズなのか
・なぜそのシャッタースピードなのか
・なぜその絞り値なのか
・なぜそのタイミングでシャッターを切ったのか
…などの説明が異なれば、単なる「偶然の一致」となりそれぞれが独立した著作物となるという裁判所の判断基準なのだろう。

タイトルとURLをコピーしました