翻案権侵害について

翻案権とは、著作権法第27条に規定された著作財産権のひとつで、著作者の許諾なく改変(加工や切り取りなど)をしてはならない権利。「同一性保持権」は著作者の権利であるのに対し、「翻案権」が著作物の権利である。

(翻訳権、翻案権等)
第二十七条 著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。

原告の主張

 本件写真の思想又は感情は車両の部分だけではなく、窓越しの乗客や乗務員の姿や背景にも表れているところ、本件従業員は、本件写真の背景を削除した上、鉄道車両の側面写真に写った乗客等の姿をぼかすという変更を加えた上で、キャラクター、文言、ほかの鉄道車両等を挿入するなどの創作的な表現を加え、本件ポスターを制作した。これは、本件写真に依拠してその表現上の本質的な特徴に創作的な表現を加え創作性のある本件ポスターを制作したものであり、本件写真の翻案権を侵害するものである。本件ポスターには、本件写真の鉄道車両部分がほとんどそのまま利用されるなどしているから、本件ポスターに本件写真の鉄道車両部分のほかにキャラクターなどが記載されたとしても、本件写真の本質的特徴が消失したとはいえない。

被告の主張

 本件従業員が本件ポスターを作成するに当たって、本件写真に加えた変更は、本件写真の背景を削除するなどの単純なものであり、創作性が認められるようなものではないから、本件従業員の行為は翻案に該当しない。

裁判所の判断(判決)

 本件写真は、背景部分が切り取られ、鉄道車両の窓枠の中にぼかしが入り、鉄道車両の一部が切り取られた上で、本件ポスターに位置して描写され、他の鉄道車両やキャラクターとともに描写されることによって、本件ポスターの制作に利用されたことが認められる。
このことから、本件写真は、その撮影方向、構図等に創作性が認められ、これらの写真に係る鉄道車両の車体は撮影の方向や構図等の創作性の一環をなすものである。このため、本件ポスターは、本件写真の表現上の本質的な特徴の同一性を維持しているものということができる。このことからすると、本件従業員は、既存の著作物である本件写真に依拠し、かつ、表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更を加え、これに接する者が本件写真の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる本件ポスターを有形的に形成したということができる。
そうすると、本件従業員は、本件写真に係る原告の翻案権を侵害したものということができる。

総評

翻案にあたり、その作業量(背景を削除するだけか、色味や切り抜きなどの複雑な作業をするのかなど)については判断の基準にはならず、「もとの作品」と「翻案された作品」で、表現上の特徴が直接体得できるかどうかが判断の基準になる、ということである。
なお、もとの作品に加工などの手を加えず、そのまま使用した場合は翻案ではなく複製になるので、翻案権ではなく複製権の侵害となる。

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